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RUINS ~2~

広い。

とても広い。

40畳はある。

それほど傷んでいない畳の上には、

長い宴会用の机が規則正しく並べてあり、

その上には白い磁気の皿やぐい飲みが

ごちゃごちゃと置かれていた。

宴席特有の騒がしさとともに

胡坐を崩して酒を酌み交わす、浴衣姿の酔っ払いが

よみがえってきそうだが、それを妨げているものがあった。

布団だ。

一面、布団だらけだった。

宴会場に布団。なぜ。

 

鍵穴のありそうな扉はここにはない。

次はどこに行こうか。

先の、案内板へ戻る事にした。

廊下を半分程歩いたところで、

宴会場に一人置いてきた事に気づいた。

 

シャッター棒を布団にねじ込みながら、

写真付きのカラーメニューを見て、

「これさ、うまそうだよ。Aセットがいい」

ばか 知るか。

 

次は大浴場へ行くことに決めた。

地下1階にある。

下へと続く、真っ暗な階段を目にして

思わず足が止まった。

生温かい、危険なにおいのする空気が鼻を掠めた。

躊躇していると、

「階段に穴が開いていたら大変だから、

これで確かめながら歩く」

そう言って、シャッター棒を階段にぶつけてカチカチいわせながら

暗い中に消えていった。

自分も後に続いた。

 

カチカチと、規則正しい音がする。

「あっ」

不意に、音が止んだ。 

ヒヤッとした。

階段をちょうど降りたところで、

床に穴が開いている。

時が長く経過したせいで、腐蝕したのだろうか。

このときばかりはシャッター棒に感謝した。

 

地下は思ったより明るかった。

地下というより半地下だ。

窓がある。

壊れた自動販売機を見つけた。

見慣れないラベルの、缶見本だったが

よく見てみると、ファンタグレープだったりして

興味深かった。

 

大浴場のガラス戸は、割れていなかった。

半開きになっていて、

まるで自分達を誘っているようだった。

近づくにつれ、かすかに硫黄のにおいが

漂ってきた。

この地域一帯は、

昔も今も温泉街だったのを思い出した。

もしかしたら、廃業してから今もなお

湯船にはお湯が溢れているのではないか。

 

白く、湯気が立ち込めている気がして

もやをたちきるように手で払うと

視界が鮮明になった。

苔に覆われて緑色になった足元を、

滑らないように慎重に歩いた。

おそるおそる、浴槽に近づく。

お湯は無かった。

タイルが湯垢のようなもので汚れている。

浴槽に入ってみた。

お湯の無い湯船に土足で入る自分の姿が

どこかおかしかった。

 

首から上の、ライオンの像がある。

口を開けている。

ここから、お湯が出ていたのだろう。

浴槽の中に立ったまま、周囲を見渡した。

天井は塗料がはげている。

タイルの床には、

洗面器が一つ二つ転がっていた。

開放感があった。

靴音がこだました。

ライオン像のせいか、浴場を緑色に変えた苔のせいか

どこか非日本的な雰囲気があった。

ローマみたいだな、と

行った事もないのにそう思った。

ライオンの牙に、何かぶら下がっていた。

 

湯垢だった。

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